「これだ!!」
ある日、僕はスマホ片手にガッツポーズした。何か良い仕事はないかとインターネットで求人サイトindeedを見ていた頃だった。当時、3年くらい趣味でブログをやっていたからという理由だけでWEBライターになろうと思ったものの、全く収入に有り付けず別の収入源を探していた。
派遣会社を転々としていた僕は、いつもindeedで検索するのは「短期 高収入」の様なワードだった。
信じ切ってしまった求人広告
僕が思わず声を上げてしまったほど魅力的なその案件は、「在宅で月々20万円可能! 業務委託 PC一台あったら誰でも作業可能 完全歩合制」みたいな見出しであった。今、改めて思い返すとこの時点で怪しい臭いがプンプンするのだが、この時はindeedという媒体を信じ切っていた。
「まさかこの求人で騙されることはないだろう」
そう確信していた僕は次の瞬間には応募ボタンを押していた。数時間後に応募完了のメールが届いた。その時点で応募した会社とは別の会社名からメールが来ていたので少し疑問には感じていたのだが、それよりも早く収入を得たいという気持ちと、好奇心が勝っていた。
面談の予定を入れて、約束の期日にオフィスに向かった。その時の名目はもちろん面接だ。求人サイトから応募したのだから当然面接があるものだと信じて疑わなかった。
会社はビルの6階にあるオフィスにあった。面接だと思っていた僕の身なりはもちろんスーツにネクタイ。しかし出迎えてくれたスタッフと思わしき面接官はストリートカジュアルよろしくの普通にその辺を歩いてそうなにーちゃんだった。
まずは、一ヶ月にいくら欲しいのか、どれくらい作業時間がとれるかのヒアリング。そしてそのにーちゃんの過去の身の上話や苦労話をひとしきり聞いた。面接なのでしっかりと聞く。何やら、仕事内容はネットで物を売って稼ぐという物らしい。その担当者と40分近く面談して、やるかやらないかの意思確認を最後に聞かれた時に、
「興味あります」
と答えた。そうしたら担当者が変わって何やら親分らしい人が奥から出てきてその人からもっと具体的な仕事内容の説明があった。無在庫転売でリスクなく在宅で稼ぐことができるらしい。早い人では初月に5万円のくらいの収入があって3ヶ月目には20万。半年後にはそれ以上になるらしい「
「すげー、俺ついに見つけた」
内心、また心が踊っていた。
が、問題はここからである。
総額80万のコンサルティング料金
「いや、でもただじゃないんですよ。月々コンサルティング料金をもらっていて」
何やら彼曰く、最初に契約金とコンサルティング料金がかかるけど、立場的には個人事業主みたいな位置付けで仕事ができる、というものだった。
「たかが月々3万くらいですぐに元取れますよ」
その担当者は言う。
「じゃあ、信販会社を通しているので契約書書いてください。今日はとりあえず審査だけでいいですよ」
何か知らないけど、話がとんとん拍子に進んでいく。ちょっと危ない話かなとは思ったのだが、何より好奇心が勝っていた。すぐに元が取れるという担当者の話も僕の背中を押していた。
「また連絡しますから」
そういってその日は自宅に帰った。その日中に信販会社からは連絡があり、結果は合格だった。しかしそうはいっても何か心に引っかかる。しかもそのコンサル料金は総額80万円ほどであり、それを月々返していく契約だった。
悩んだ結果、もう一度その会社に連絡した。迷っている旨を伝えたら担当者はまた時間を作るからオフィスに来てくれないかと申し出てきた。
それを承諾し、数日後オフィスに向かった。本当に元が取れるのか心配だと正直に担当者に伝えて契約をするつもりはない、と言うはずだった。
「いや、じゃあ事例を見せましょうか」
「社長になれるんですよ、いいのですか」
みたいな甘い言葉がどんどん放たれる。するとだんだんとまたやる気になってしまった。単に個人事業主になるだけなのだけど、その時の僕にしてみれば社長になれるという響きに負けてしまった。
「じゃあ契約書にサインしてください」
僕はそのままサインしてしまった。そして1日にして僕は80万円近い借金を抱えることになった。借金にはとても抵抗があった。この年5年間払い続けた車のローンの支払いが終わったばかりでホッとしていたところだったからだ。
契約してから、インターネットで動画を通じてビジネスを学んでそれを実践していくというカルキュラムが組まれていた。初月から5万円稼げるという言葉を鵜呑みにしていた僕はすぐに取り組んだ。
現実は甘くなかった
……20日、30日経っても利益が出ない。挙げ句の果てには2ヶ月が経過しようとしていた。しびれを切らした僕は契約した会社に申し出た。すると帰って来た答えは、
「やり方が悪いですね」
だった。「おいおい、なんだよそれ」と内心思ったが、「ちゃんとやると利益出ますよ」という言葉を信じてもう一度チャレンジした。3ヶ月を経過してやっと一品が売れた。しかし利益はでたものの数千円だった。月々2万円のローンを組んでいる。そんなお金ではもちろんペイできない。
この時あたりから薄々感じ始めていた。もしかしたら騙されたのではないのかと……
問い合わせても煙たがられるだけになってきた。やばい完全にやってしまった。だんだんとモチベーションも下がってきて、このローンどうしようという絶望感が日に日に増していく。
そんなある日、救いの手は差し伸べられた。インターネットで検索すると同じような被害にあった人が知恵袋などに投稿を寄せていたのだ。その中には全額返金してもらったという回答が乗せられていた。
藁にもすがる思いで、さらに色々と調べてみると、悪質な情報商材の返金を専門とした弁護士法人などもあるみたいだった。
とある弁護士法人に依頼することに決めた。決め手は着手して示談するまで金額はかからないという金額面だった。これ以上お金がかかっては参る。
その弁護士法人に問い合わせると、
「それはひどいですね! 早速資料を送りますので詳細を記入して申込書を送り返してください!」
という心強い言葉が! 救いの手は遂に差し伸べられた。自宅に弁護士法人から訴えるための資料が届いて、契約書のコピーなどを添付してこれまでの経緯を書面に書いた。念の為再度弁護士法人に問い合わせた時のことだった。
「泣き寝入りなんてしたくないでしょ。やるかやらないかですよ」
僕は神の存在をこの時、信じた。「信じるものは救われる」どこかで聞いた言葉が脳裏に木霊していた。お金を取り戻せる。そう確信した。
そのまま、訴える手続きが進む……はずだった。数日後、僕に一通のメールが届いた。
内容は、弁護士法人からだった。
「今回は意思に添えない結果となりました。申し訳ございません」
僕は一瞬何の事だかわからなかった。そして
「…」
「……」
「………!!」
「…………何ですとぉぉぉおおお!!!!!!」
メールに向かって叫んでしまった。
何かの間違いやろ、どういう事やねん。すぐにその弁護士法人に詳細を確認した。すると、
「今回、どこで契約しましたか?」
受付の男性はその先の答えをもう諭してしるように僕に問いかけた。
「事務所です」
正直に僕はその時の事を話した。
「あ~、やっぱり。基本的に事務所で契約したときは裁判しても厳しいんですよね。これが喫茶店とか路上だと話は別なのですが」
淡々と電話越しに担当者は話す。
僕はその時、言葉が出なかった。子供の頃クリスマスにおねだりして貰えるものだと信じ切っていたクリスマスプレゼントが当日違うものだった様な気分だった。
電話を切ってから段々と一度落ちた感情がマグマの様に上がってきた。
「いや、先にいうとけや!!!」
もう何を言っても後の祭りである。僕の元には打ち砕かれた一筋の希望と、借金残高だけが残った。
最後は腹をくくるしかなかった
この後、僕は腹を括ることにした。いつまでも過ぎてしまった失敗を悔やんでも仕方がない。この借金をどうにかして返そう。
心に決めて、僕は働いた。働きに働いた。一時期は数社掛け持ちで休みなしで仕事をした。
神はどこまで僕を見捨てるのか。その後、働き過ぎて体を壊してしまった。行き着く先はやっぱりネットビジネスだった。体を壊しても在宅で出来る。もう一度僕は諦めていたネットビジネスをやって見ることにした。何とか借金返済の足しにしたい。そう思って勉強会などにも積極的に出席した。
もちろん、訴えようとしていたことはトップシークレットである。それから今も現在進行形でネットビジネスを続けている。一時期は別の仕事が忙しくただローンの返済をしている時期も長かったが、少しずつ利益も出てくる様になった。もしかしたら、そんなに悪い業者ではなかったのかもしれない。最初に背負った借金が多き過ぎて被害妄想が広がっていただけなのかも。最近ではそう思うようになった。というかそう思っていないとやってられない。
まだローンは1年半残っている。ローンを返済しきった時、僕がどれだけ稼げているのか、それともただお金を払うだけなのかは自分次第なのだろう。
<終わり>
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