新型コロナウィルスの感染拡大による日本政府の緊急時代宣言を受け、一世紀近く前に出版されたカミュの『ペスト』が話題になっています。1ヶ月だけで何と15万部売れたという小説にしては異例の売り上げ部数です。
それだけ、感染症の話題がセンシティブなことや、この小説の題材が感染症の拡大によるロックダウンされた都市をテーマとしていることなどが、今私たちが置かれている状況とリンクしていると言えます。
本記事では『ペスト』を読んで気がついたこと、感じたことなどを書評としてまとめます。
この本(ペスト)を知るきっかけ
もともとこの本を知ったのは中田敦彦さんのYouTube大学がきっかけでした。カミュの「異邦人」はもちろん知ってましたが、自作の「ペスト」は正直あまり知らなかった。
あっちゃんの本の解説は本当にわかりやすいし、めちゃめちゃ面白く詳しく紹介しています。短時間でここまで噛み砕いて内容を理解してコンテンツにできるって本当にすごいです。
購入しようと思ったのは4月上旬でしたが、Amazonもメルカリもどこの品切れ状態で定価800円の本が2000円以上で転売されているいう状態が続き、実際に手に入れたのは5月に入ってからでした。
読む前は、海外でロックダウンされた話くらいに思っていましたが読んでいくと、人々のリアルな心情や行動心理まで克明にイメージでき、まるでその時代に生きているかのような錯覚になります。もちろん、今の社会情勢と似ているということもありますが。
ペストの始まり
小説の主人公はあるお医者さんです。普段通りの生活を送っていたある日、建物内で鼠の死体を見つけます。
初めは誰かの悪いいたずら程度にしか捉えてませんでしたが、それがだんだんと数が増え、終いには町中鼠の死体だらけになってしまったのです。
ちなみにペスト菌とは元々ノミの体内に生息しており、それがクマネズミを刺すことで感染していくという流れです。
クマネズミの次のターゲットが人だったと。そもそもペストはすでに収束された感染症だと当時の人々は捉えていたので政府も初めは大した対応を取りませんでした。
しかしものの1~2ヶ月の間にペストは町中に広がり多くの死者を増やすことに。その結果、知事はロックダウンの決断を行いました。
この一連の流れですが、今回のコロナウィルス感染拡大と似ています。中国で感染者が出たと報じられた当時はみんなこのウィルスを軽く見ていたし、WHOも対して動かなかった。その結果、衝動の対応が遅れ、世界中がパンデミックになりました。
いつの時代の人々も、感染症にだけは、現実に痛みを伴わないと危機感を感じないのですね。
ペストでロックダウンされた世界
いよいよ都市はロックダウンされます。その中で色々な登場人物のストーリーが展開されていきます。
- この状況を冷静に受け入れるもの
- この状況を記録に残すもの
- この状況から逃れようとするもの
- この状況を利用すようとするもの
愛する人や好きなことができなくなった人々は矛先を政府に向けたり、神に対する信仰が足りないせいだと意味付けたりと混乱に陥ります。
感染症が身近に感じ、危機感を覚えるのは自分の短な人が感染して死亡した時です。日本もそうでしたね。
このストーリーも身近な人が亡くなり、元にペストに抱いていた感情がどんどん変化していく様子が克明に描かれています。
見えない敵との戦いに、疲弊しながらそれでも諦めない様子や、逆に絶望して病に負けてしまうもの、いかに感染症が人々の生活を一変させる深刻な問題なのかを改めて考えさせられました。
ペストの終焉
どんなに深刻なパンデミックもやがて終幕を迎えます。ペストもまた同じ。しかし、生き残る人も入れば犠牲になる人も当然いるわけで、小説の登場人物も例外ではありません。
主人公と非常に近しい友人が、ペストの収束の直前に感染し、急死したり、長く離れて闘病生活を行っていた妻も帰らぬ人になり、主人公は失意に陥ります。
町は次第に元どおりの生活に戻りますが、やはり胸に空いた穴のような、全てが元どおりとは言えない、それは街並みではなく、人の心。
『ペストは無くならない、常に私たちの心に深い爪痕を残しているのだ』という最後のメッセージが非常に印象的です。
ある人は、愛する人との再開に喜び、ある人はカフェやバーで騒げることに喜び、ある人は街を普段通りに歩けることに喜びました。
しかし、ペストが奪って行った命や、ロックダウンされていた時間は人の心に克明に記録されます。
たとえ収束しても感染症は、いつまた起こってもおかしくない、人類が永遠に闘うべき問題なのでしょう。
まとめ
今回のような、ウィルスの感染拡大による緊急事態宣言が日本でも出されなければ、この本を読むことなかったと思う。たとえ読んでいたとしても、感じ方は全然違ったはず。多分具体的にイメージできなかった。
しかし、今の時代背景とリンクさせて読むことで、登場人物の心情やストーリーも非常に頭に入りやすかったです。
ストーリ構成ももちろん楽しめますが、色々と考されらえるメッセージ性の高い作品だと思います。
間違いなく、今こそ読むべき小説と言えます。
それにしても、カミュという稀代の才能がわずか47年の人生で、しかも交通事故で幕を閉じたという事実は寂しい気がしますね。
逆に、短い生涯で少ない作品数だからこそ現代にまで受け継がれているのかもしれませんね。
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